【WEBデザイン】パノリザーブとランゲ1時計の文字盤から読み取る意識差について

【デザイン】パノリザーブとランゲ1時計の文字盤デザイン考察

名古屋市西区のWEB/ホームページ製作会社[Aki Web Design]です。
 
本日は久々にデザインの考察に関する記事です。
ドイツの高級時計に関するマニアックな考察でお送りします。
 

 
元々時計は好きでしたが、ここ1年ほど時計屋さんとのお付き合いが出来まして、より深いレベルで時計に接する機会がありました。
 
そんな中で気になった時計にA.ランゲ&ゾーネLANGE & SOHNE)の「ランゲ1」と言う時計と、グラスヒュッテ・オリジナルGlashütte ORIGINAL)の「パノ・リザーブ」と言う時計があります。
 
一般に聞き馴染みのある人は多くないと思いますが、ともに時計愛好家には知られた、素晴らしい時計です。
 
また、当初は同一だったメーカーが枝別れした先で製作している上に、似た意匠デザインを持っている、ということから比較されがちな時計でもあります。
 
時計の仕様やブランドの歴史など詳細は、時計屋さんのサイトなどをご参照いただくとして、当ブログでは文字盤から読み取れる意匠面の異なりや、その意図をデザイン屋として考察したいと思います。
 
なお、どちらも素敵な時計だと思ってますので優劣をつける意図はありません。悪しからず。
 

ランゲ1とパノ・リザーブに共通する特徴について

 
2つの時計を比較するにあたってまずは写真を見てみます。
 
【WEBデザイン】パノリザーブとランゲ1時計の文字盤から読み取る意識差について
 
一目見ていただくと、まず文字盤に目がいくことと思います。
 
限定モデルなど個体によって同一のシリーズでも多少の差がありますが、どちらの時計も時分を示すインダイヤルと秒数を示すスモールセコンド、さらに大きなデイト表示に、巻き上げ残存時間を示すパワーリザーブという構成になっています。
 
普通に目にする3針時計とはちょっと雰囲気が違うと思われることでしょう。
 

ランゲ1とパノ・リザーブに用いられているアシンメトリーというデザイン技法

 
この「違う雰囲気」を演出することのうち、ランゲ1とパノリザーブにて特徴的なのは、時分秒を示す2つのインダイヤルがアシンメトリーに配置されていることです。
 
アシンメトリーとは、ある軸線に対して形や配置、色などが左右非対称であることを指します。
(シンメトリーとは、その逆で左右対称であることを指します。)
 
時計に限らずアシンメトリーをデザイン構成に使用することで、軽やか、動き、モダンといった印象を与えることができます。
 
ランゲ1とパノ・リザーブは共にアシンメトリーな構成を使用することで、ドレスウォッチとしてしっかりとした雰囲気を残しつつも、軽さ、カジュアル感はプラスしたいといった設計意図があると見ます。
 

ランゲ1とパノ・リザーブにおける要素配置の妙

 
また、もう一つ共通しているところでは、両者ともに左上に時分針を持ってきているのも共通しています。
 
昨今では様々な機能が搭載されていることも珍しくない高級時計ですが、やはりどの時代も時計において一番大事なことは「時間がわかること」です。
ランゲ1とパノ・リザーブにもパワーリザーブやビッグデイト、スモールセコンドが搭載されていますが、一番見るのはどこか、といえば時分針かと思います。
 
人の目は左上から右へ、下へと流れることに慣れています。
 
これはWEBとも共通する内容で、ヨーロッパにおけるの文字(書物)の書き方にルーツがあると言われますが、現代では注視する必要のあるすべての事項にて意識されているデザイン配置です。
 
ランゲ1とパノ・リザーブでも複数の要素を文字盤上に配するにあたり、そのことを意識していることが見て取れます。
 
他のメーカーの高級時計でも複数要素を配するものはありますが、このセオリーを無視し左上にあまり見ることのない機能を搭載している場合、少し見づらさを感じることでしょう。
(ランゲ1にては左右反転のモデルもあるようですが、通常モデルあっての例外モデルという位置付けで、セオリーはセオリーとして認識されて制作されていると思います。)
 
そのあたりの基本をしっかり押さえているあたりは、やはりインパクト重視の新興ではなく、老舗(※)であるといった感じです。
※ランゲは復興にあたってこの時計を出しましたので、インパクトを狙ってのことであるという点もあるでしょう。ただしあくまでも「老舗の本格派」というブランド立ち位置で復興したかったということだと認識できます。
 
 
以後はそれぞれの特徴を見ていきます。
 

ランゲ1のデザインにおける特徴について

 
【WEBデザイン】パノリザーブとランゲ1時計の文字盤から読み取る意識差について
 
ランゲ1の文字盤デザインを単体で考えるとき、その細部まで計算し尽くされた美意識の高さに目を奪われます。
 
構成、配置、それぞれの要素の大きさや、色彩、フォントに至るまで整っています。
 
それでいて先に挙げたアシンメトリーなど外し要素がないわけではなく、と、とても高いレベルでデザインがまとまりを持っているという内容です。
 
ランゲ1自体が愛好家の間で非常に評価が高い時計でもありますし、この時計発売当時の記事などを読むと、有識者から絶賛されています(もちろん広告的な扱いもあるでしょうが)。
 
機構やブランド復興というストーリー的な素晴らしさもさることながら、この整ったデザインがその一助になっていることは間違いないでしょう。
 
私もこの時計を深く知れば知るほどに「なるほど、絶賛されるわけだ」と思いました。
 

ランゲ1に用いられている黄金比という考え方

 
黄金比」という言葉は美術やデザインについて話すと、よく出てくるので聞いたことのある人も多いでしょう。
 
Wikipediaを引用すると
“黄金比(おうごんひ、英語: golden ratio)は、
黄金比
の比である。近似値は1:1.618、約5:8。
 
線分を a, b の長さで 2 つに分割するときに、a : b = b : (a + b) が成り立つように分割したときの比 a : b のことであり、最も美しい比とされる。貴金属比の1つ(第1貴金属比)。”
出典元:https://ja.wikipedia.org/wiki/黄金比
とあり、この比率を用いて要素を配置すると美しく整って見える、とされています。
 
ランゲ1が整って見える理由の一つはこの「黄金比に沿って要素配置をしている」ためです。
どのように配置されているのか、はこちらのA.ランゲ&ゾーネ公式インスタグラムから拝借したGIF画像を見ていただくのが早いでしょう。
 
【WEBデザイン】パノリザーブとランゲ1時計の文字盤から読み取る意識差について
出典元:https://www.instagram.com/p/Bh091c9nnPK/
 
また、黄金比以外にもメイン要素である、時分、秒、日付を二等辺三角形上に配置する工夫もあり、それぞれが計算されたものとなっています。
 
【WEBデザイン】パノリザーブとランゲ1時計の文字盤から読み取る意識差について
出典元:https://www.instagram.com/p/Bh091c9nnPK/
 
小さな文字盤に複数の配置技法が積み重ねられ、美しさを構成しているのです。
もちろん先に説明したアシンメトリーな配置もその技法のひとつです。
 

ランゲ1に高級感をもたらす素材と色彩の感覚

 
ランゲ1の製造メーカーであるA.ランゲ&ゾーネは、時計のケースなどを製造するにあたり基本的にゴールド、プラチナなどの高級素材を用います。
 
これらの素材は、高級とされるブランドでよく使用される素材ですが、ランゲ1というかA.ランゲ&ゾーネは特にその素材に合わせた色調を大切にしているように見受けます。
 
冒頭に挙げた写真では、使用されている色は文字盤の白、ケースのゴールド、文字の黒、の3色。
白黒をモノトーンとしてまとめると、素材の色であるゴールドしか入っていません。
 
一般に複数の色が入れば入るほど「高級感」を出すのは困難になります。
カラフル=子供っぽい印象になりやすいためです。
 
格式張った場所で使用するドレスウォッチを製造する場合は当たり前のことなのかもしれませんが、ランゲ1ではパワーリザーブや日付など色をつけやすいところにも意図的に別の色を使用しない、針の色も分けない、と意図して色を決めているのだと思います。
 
配置における技法足し算の考え方と対照的に、色数は引き算という考え方があり、そこに要素(パーツが丁寧に製造されている、文字盤の線やフォントが綺麗に引けるなどの技術力)それぞれのレベルの高さが加わって、一つの盤面を作っています。
 
時計なだけに歯車を積み上げるが如く、精密設計され、整ったその調和が美しい文字盤デザインを構成しているのです。
 
 

パノ・リザーブのデザインにおける特徴について

 
【WEBデザイン】パノリザーブとランゲ1時計の文字盤から読み取る意識差について
 
パノ・リザーブの文字盤デザインを単体で考えるとき、まずはその登場背景を考える必要があるでしょうか。
 
パノ・リザーブは1994年のランゲ1発表から数年の後に発表されたようです。
企画自体がランゲ1の発表を受けてのものか、たまたま後になったのかは私には分かりませんが、間違いなくランゲ1の絶賛状況を横目に開発が進んだと思われます。
 
よって、如何にランゲ1と差別化を測るかという点が至上命題であり、文字盤デザインにもその跡を見て取ることができます。
 
本記事では発表時のモデルではなく、その後、市況を受けて調整を経たであろう現行モデルにてデザインを考察します。
 

パノ・リザーブに見られる外しすぎない程度の崩し方

 
現デザインを見るに付けてグラスヒュッテ・オリジナルはパノリザーブをランゲ1と差別化するにあたり、よりカジュアルな方向に舵を切ったようです。
 
もともとグラスヒュッテ・オリジナルA.ランゲ&ゾーネのようにゴールド、プラチナしか使わないと言うわけではなく、ステンレスを用いて時計を製造しており、A.ランゲ&ゾーネよりは親しみやすい価格帯のモデルを多くラインナップしています。
 
カジュアルな方向に舵を切った時に支持されやすいブランドの母体があったと考えられ、その自身の立ち位置をよく把握した舵の切り方だったと言えます。
 
では、どのようにカジュアル化を成しているのか、と言うことになりますが、その1つが余白の取り方です。
 
パノ・リザーブでは所々、余白が均一になっていない部分があります。
以下の画像にあるようにパワーリザーブ枠の右端が文字盤のキワまで届いており、盤面全体を覆うように構成される周(この場合上下の文字の延長線上)の範囲を突き抜けています。
 
【WEBデザイン】パノリザーブとランゲ1時計の文字盤から読み取る意識差について
 
またランゲ1の要素が全体的に満遍なく計算されて配置されているのに比べ、明らかに上半分に重みを集めています。
 
とりわけ右下は秒針枠であるスモールセコンドを時分針枠に重ねてしまったこともあり、要素がデイトのみで申し訳程度に文言が添えてあるだけのスカスカと言える状況です。
 
このことによりまるで逆三角を台に乗せるがごとく、ふらふらと、なんとなく不安定かつ危うい感じを受けるのです。
 
もしかすると人によってはこの時点で好きになれないかもしれません。
 
しかし不思議なことに、こういう危うい雰囲気を持つデザインは、見慣れることによってクセになり「とても好き」といった熱烈なファンを醸成するものでもあり、さらに若さや先進性を表現することにもつながります。
 
別の業界で例えると、少し前に逝去された建築家のザハ・ハディド氏の製作物などがそうでしょうか。
 
パノ・リザーブではその見極めを絶妙なラインで線引きしていると見えるのです。
 
デザインを学ぶと「ゲシュタルト原則(ゲシュタルトの法則)」という人の知覚の傾向ごとにまとめたいくつかの原則を知ることができますが、この原則が保たれることで、人はまとまりとしてそれらの構成要素を認識することができます。
 
元々制作物は時計であり、小さな文字盤の上に要素をデザインし最後はケースに収めるというルールがあるため、原則を守りやすい土台があります。
 
そのため、おそらく意図的に、この原則が壊れない程度に保たれる配置の崩し方を模索し、このバランスに落ち着かせたのでしょう。
 
そのことがランゲ1と似てはいるものの非なるものを作ることにつながったと考えます。
 

パノ・リザーブに用いられるフラットなデザイン

 
さらにパノリザーブでは装飾を省くと言う方法においてカジュアル化を推進しています。
昨今当たり前に使用されるようになったフラットデザインというやつです。
 
ランゲ1がオペラ劇場のカレンダーを意識して日付表示であるビッグデイトの周りに、縁取りを使ったのに対し、パノリザーブには、縁取りがありません。
 
【WEBデザイン】パノリザーブとランゲ1時計の文字盤から読み取る意識差について
 
文字盤面と日付枠の間に遮るものがないことで、袖口が切りっぱなしの服を着ているようなラフさを出すことができます。
 
そしてそれは、同枠の中の日付板における10の位と1の位の間にも段がないことや、ラグ幅の少ないケース枠などにもつながってきます。
 
結果、グラスヒュッテオリジナルのパノ・リザーブは、よりカジュアルに、自身の立ち位置をその時計に反映することになったと考えます。
 
もちろん色彩の引き算などランゲ1にて記載したセオリーは守りつつ、ドレスウォッチとして求められる要素は損ねず、です。
 

ランゲ1とパノ・リザーブのデザインまとめ

 
この2本のデザインを考察して改めて感じたのは、強烈なブランドアイデンティティです。
 
ランゲ1とパノ・リザーブ、ひいてはA.ランゲ&ゾーネとグラスヒュッテ・オリジナルのどちらの時計、ブランドも自身に求められているものを理解し、また求めてもらいたい方向に顧客を誘導できるように、商品1つの設計に落とし込んで来ています。
 
世界に名が知れ渡るレベルのトップブランドが、どのように他社と差別化を図り、自己を確立していくか。
時計の文字盤というに厳しい制限の中で、考えに考え抜かれたデザイン制作の結果を見た気がします。
 
 
今日はここまでです。またの更新でお会いしましょう。
 
ひろたか
 
 
(文面に記載以外の画像はそれぞれの公式HPより拝借しました。)
A.ランゲ&ゾーネ:https://www.alange-soehne.com
グラスヒュッテ・オリジナル:https://www.glashuette-original.com